H30年度予備試験論文式 民事実務基礎 再現答案

 民事実務基礎 評価:A 所要時間:85分

 

第1、設問1について
1、(1)について
 XはYに対する100万円の返還請求権を被保全債権として、YのAに対する80万円の売買代金債権の仮差押命令(民事保全法20条1項)を申し立てるべきである。
 仮差押えをすると、債務者への弁済が禁止される(民事執行法145条1項参照)。仮に仮差押えがなされない間に第三債務者から債務者への弁済がなされ、債務者が財産を浪費した場合、債務者の責任財産がなくなり、債権者は満足を受けることができなくなるおそれがある。また、仮差押えをしておくことで、将来の転付命令(同法159条)を受けることが簡単になる。
2、(2)について
 消費貸借契約に基づく貸金返還請求権、履行遅滞に基づく損害賠償請求権、2個、単純併合
3、(3)について
 Yは、Xに対し、100万円及びこれに対する平成28年10月1日から支払済みまで年5分の割合の金員を支払え。
4、(4)について
(1)Xは、Yに対して、平成27年9月15日、100万円を貸し付けた。
(2)(1)の際、弁済期を平成28年9月30日と定めた。
(3)平成28年9月30日は経過した。
(4)よって、XはYに対し、100万円及びこれに対する平成28年10月1日から支払済みまで年5分の割合の金員の支払を求める。
第2、設問2について
1、(1)について
 平成28年9月30日、XY間の貸金債務の弁済として100万円を支払った。
2、(2)について
(i)本件内容証明郵便において、100万円の支払債務とアとを対等額で相殺する旨の意思を表示する。
(ii)上記事実の主張が必要であると考える。
 売買契約(民法555条)は双務契約であるため、アの事実の主張により、同時履行の抗弁権(533条)の存在が基礎づけられることになる。同時履行の抗弁権が付着している債権は相殺ができないため、相殺を主張するYの側で同時履行の存在効果を消さなければならない。
 同時履行の抗弁権を消すための主張である弁済の事実として、上記事実の主張は必要である。
第3、設問3について
YがXに対して本件カメラを売ったのは平成19年10月1日であり、代金債権の消滅時効の起算点は同日であるから(166条1項)、現時点ではすでに10年が経過しており、消滅時効が成立している(167条1項)。そのため、Pは消滅時効を援用することで、Yの相殺の抗弁の再抗弁とすることができると思える。
 しかしながら、508条により、YのXに対する売買代金債権での相殺が認められるとPは考えたため、Pはかかる主張を断念したと考えられる。
 同条にいう「消滅以前」とは、時効期間経過時点をいうと考える。本件では消滅時効の時効期間経過時は平成29年10月1日であり、受働債権の弁済期は平成28年9月30日であるため、平成29年10月1日時点で両債権が相殺適状にあるといえる。
 そのため、「消滅以前に相殺に適するようになっていた」といえ、Yは時効期間経過後もYのXに対する売買債権での相殺を主張できる。
 よって、Pはかかる主張を断念したのである。
第4、設問4について
1、Yの弁済の抗弁は認められる。
(1)まず、Yは自身の銀行口座から平成28年9月28日と29日に各50万円ずつ、合計100万円を引き出しているといえる。これは①の文書から証明できる。①の文書は報告証書ではあるが、機械的に作成されたものなので、その信用度は高いといえる。
 そして、その100万円はXへの弁済の資金であると考えるべきである。通常人が他に予定もないのに100万円を2回に分けて引き出すことは考えにくいからである。
(2)次に、Yは弁済期である平成28年9月30日にXと会い、この機会にYはXに対して弁済として100万円を交付しているといえる。
 Yが28,29日に100万円を引き出し、弁済期にXと会っているといえるため、この機会に弁済があったと考えるのが通常である。
(3)また、領収書がないことは、弁済があったことの証明を妨げない。
 確かに、100万円の弁済があった場合には通常領収書が作成されるといえ、領収書が証拠として提出されるべきであるといえる。しかし、領収書は作成されたが、紛失してしまったため証拠として提出できないというYの言い分は認められる。
 Yの言う通り、Yは平成29年8月31日に引っ越しをしており、弁済の日から1年がたった後、今後紛争が起きることはないと思って引っ越しの際に他の書類と共に領収書を処分してしまうということは充分に起こり得ることであるといえ、Yの弁解の信用度は高いといえるからである。
(4)最後に、Xの言い分に核心的な事実はない。
2、以上より、Yの弁済の抗弁は認められる。               以上

 

【コメント】

・仮差押えの効力の条文が間違っている気がする。 

・設問4は、何を書けばよいのかが分からなかった。