H30年度予備試験論文式 会社法 再現答案

会社法 評価:A 所要時間:75分

 

第1、設問1について
1、Dは、自らの行った議題提案権(303条1項)は適法になされていると主張する。すなわち、甲社の発行済株式総数は100万株であり、100株をもって1単元の株式とする単元株制度を導入している。Dは取締役設置会社である甲社株式を平成24年から引き続き1万株(100単元)保有しており、甲社株式の総数は1万単元であるため、Dは甲社の総株主の議決権の100分の1以上を保有しているといえる(303条2項)。そして、Dは平成29年6月29日に行われる定時株主総会の8週間以上前である平成29年4月10日に議題を提案しているため、303条2項の要件を満たし、Dの議題提案権の行使は適法になされているといえる。
 そして、議題提案権が適法に行使された場合、会社は株主総会の招集通知に議題を記載しなければならない(299条4項、298条1項2号)。
 しかしながら、甲社は招集通知にDの提案した議題を記載していないため、違法であると主張する。
2、これに対し、甲社としては以下の反論をすることが考えられる。
 すなわち、甲社は平成29年5月8日に募集株式発行を行い、新たに20万株を発行したところ、甲社株の総発行株式数は120万株(12,000単元)となり、株主総会の招集通知を送らなければならない株主総会の2週間前の時点でDは総議決権の100分の1の株式を保有していないといえるため、Dの議題提案権の行使は不適法であり、収集通知に議題を載せる必要はないといえるから、招集通知に議題を載せなかったことは適法であるとの主張である。
3、では、甲社の上記反論は認められるといえるか。
(1)Dとしては、甲社は基準日制度(124条1項)を導入しているところ、基準日後に発行された株式を分母に入れて議題提案権の要件をチェックすることは基準日株主の権利を害する(124条4項ただし書)ものであり、許されないと主張することが考えられる。
(2)この点について、124条4項ただし書の趣旨は、基準日後の事情の変動等により基準日株主の期待を害さない点にある。
 これを本件についてみると、Dは基準日株主であり、甲社の上記主張が認められた場合、Dの議題提案権が不適法となり、議題提案権の適法な行使というDの期待が害されることになる。また、甲社の上記のような主張を許すと、会社にとって気に入らない株主が気に入らない議題を提案した場合に、会社が株式無償割当をするなどして総発行株式数を事後的に増やし、株主の議題提案を事後的に不適法にすることができるようになることになりかねないが、このようなことは会社の権利濫用であり、認められるべきではない。
 よって、甲社が、基準日後に発行した株式を分母に入れて議題提案権の要件を判断することは、基準日株主の権利を害するものといえ、124条4項ただし書に反し、認められない。
(3)以上より、甲社の反論は認められないため、Dの議題提案権の行使は不適法であり、これを招集通知に記載しなかったことは299条4項、298条1項2号に反し、違法である。
第2、設問2について
1、Bは423条1項に基づき、甲社に対して損害賠償責任を負うことが考えられる。
423条1項に基づく損害賠償責任が認められるためには、①任務懈怠、②故意又は過失、③損害、④任務懈怠と損害との因果関係が必要である。
(1)まず、Bに任務懈怠が認められるか。
 本件賃貸借契約は、甲社取締役であるBが、第三者である丁社の名義で甲社となされているため「取締役が」「第三者」たる丁社「のために」取引をなしたといえ、356条1項2号の直接取引に当たる。
 そして、本件賃貸借契約の賃料は相場の二倍であり、本来は相場の値段で駐車場を契約することが可能であったといえる。そのため、甲社が丁社に対して支払った賃料のうち、相場との差額分が甲社の被った損害であるといえ、その額は150×12=1800万円である(③)。
 以上から、423条3項1号の取締役として、Bは任務懈怠が推定され、それを覆す事情もない。
 よって、Bに任務懈怠が認められる(①)。
(2)また、Bは自ら本件賃貸借契約を締結しているため、任務懈怠につき故意があるといえる(②)。
(3)また、任務懈怠と損害との因果関係も認められる(④)。
(4)以上より、Bは423条1項による損害賠償責任を負い、その金額は1800万円であるといえる。
2、これに対し、Bとしては責任限定契約(427条1項)の存在を主張することが考えられるが、Bは自ら本件賃貸借契約を締結しているのであるから、「善意でかつ重大な過失がない」とはいえず、責任限定契約は本件において効力を生じない。
3、以上より、Bは甲社に対して1800万円の損害賠償責任を負う。       以上

 

【コメント】

・設問1の処理はこれでよかったのかは分からない。305条を落としている。また、基準日株主についても何となく触れたため、解答がブレブレになっている。

・設問2の責任限定契約の処理も不明。私の答案では効力を生じないとしているが、これでよいのか?

 追記:直接取引→428条2項で責任限定契約の適用なし、の流れでいくのが正統か。