H30年度予備試験論文式 刑事実務基礎 再現答案

 刑事実務基礎 評価:A 所要時間:95分

 

第1、設問1について
 刑訴法89条4号の「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」といえるかは、①隠滅する対象が存在するか、②被告人に罪証を隠滅する意思・可能性があるかを考慮して判断すべきと考える。
 まず、隠滅の対象としては、犯行の目撃者であるW2や、共犯者とされるBが存在する(①)。
 また、目撃者であるW2を脅して証言を変えさせたり、共犯者とされるBと会って口裏合わせをすることが考えられる。そして、Aは犯行を否認しているため、実際にそのような罪証隠滅を行う可能性があるといえる(②)。
 以上のことから、裁判官は「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある」と判断したと考えられる。
第2、設問2について
1、①について
 刑訴法316条の15第3項1号イに該当する事項として、同条1項3号に該当することを述べる。実況見分と検証との違いは任意処分か強制処分かだけであり、性質は同様であるため、実況見分調書は316条の15第1項3号の「これに準ずる書面」に当たるからである。
 次に、同条3項1号ロに該当する事項として、W2の検察官面前調書の証明力の判断に当たって、W2が当時犯行を目撃したとしている位置から犯人の顔を本当に認識できるのかを調べることは重要である旨を述べる。
2、②について
 同条3項1号イに該当する事項として、同条1項5号ロに当たることを述べる。検察官は後にW2の証人尋問を請求しているためである。
 同条3項1号ロに該当する事項として、W2の警察官面前の供述録取書により、W2が他の事を言っていないか、Aにとって有利なことを言っていないか、W2の検察官面前調書と矛盾したことを言っていないかを検証することが、W2の検察官面前調書の証明力の判断に重要であり、被告人の防御のため必要である旨を述べる。
3、③について
 同条3項1号イに該当する事項として、同条1項6号に該当することを述べる。
 同条3項1号ロに該当する事項として、当時犯行現場付近に存在した他の者の証言がW2の証言と矛盾したりしている場合には、W2の証言の証明力を減殺することができるため、W2の検察官面前調書の証明力の判断に重要であり、被告人の棒業のために重要である旨を述べる。
第3、設問3について
 Aに対する当初の訴因には、被害品に本件CDが含まれておらず、またBが共犯者であることを示されていない。そのため、検察官は被害品に本件CDが含まれること、AがBと共謀のうえ本件犯行を行ったことにつき、訴因変更の手続(刑訴法316条の5第2号)をしたと考えられる。
 検察官が行った所要の手続としては、まず、訴因を上記のように変更する旨の書面を裁判所に提出し(刑事訴訟規則209条1項)、次の公判期日にその書面を朗読する(同条4項)ことを行ったと考えられる。
第4、設問4について
1、(1)について
 本件事実は直接証拠に当たると考える。
直接証拠とはその事実により被告人の犯行を直接に証明することができるものをいう。
本件事実は、W2が、Aが車から電化製品を持ち出したところを目撃しているといえ、Aによる窃盗の事実を直接に証明できる。
 そのため、本件事実は直接証拠に当たる。
2、(2)について
裁判長の検察官に対する釈明の根拠条文は刑事訴訟規則208条1項である。
裁判長は、Bの証言だけでAが本件犯行を行ったことを証明するに十分であると考えたため、Bに加えてW2を尋問する必要がないと考え、かかる釈明を求めたものと考えられる。
3、(3)について
 検察官としては、Bが犯行を認める証言を翻す可能性があるため、その場合に備えてW2の尋問が必要である旨を述べる。また、W2を尋問すれば、仮にW2が甲8号証と異なる証言をした場合に伝聞証拠である甲8号証を321条1項2号の書面として証拠として使用できることになるため、このこともW2を尋問する必要性として述べる。
第5、設問5について
1、刑訴法上の問題点について
 まず、Aの公判前整理手続は終了しているため、公判前整理手続終了後の証拠調べ請求に当たるとして、刑訴法316条の32に違反する可能性がある。
 同条においては「やむを得ない事由」がある場合には公判前整理手続後の証拠調べ請求が許容されるところ、「やむを得ない事由」とは公判前整理手続後でないと証拠調べ請求ができない場合や、証拠調べ後でないと意味を持たない証拠である場合(弾劾証拠など)をいうと考える。
 本件において、VがBに交付した領収書の写しは、公判前整理手続終了後である9月15に入手したものである。確かに領収書自体が作成されたのは公判前整理手続中であり、その時点で提出可能であったかもしれないが、Aの弁護人が弁護人となっていないBからタイムラグなしに領収書の写しを手に入れるのは難しいといえるため、このような場合でも「やむを得ない事由」があるというべきである。
 よって、316条の32には反しない。
また、本件領収書は起訴後に作成された証拠であるため、公判中心主義に反するとも考えられるが、上述同様、起訴後に作成されたことにつきやむを得ないものであるため、公判中心主義には反しない。
2、弁護士倫理上の問題点について
本件では、弁護士職務基本規定22条1項違反の可能性が生じる点で問題があると考える。
本件において、Aは犯行を否認している。しかしながら、共犯者とされているBが被害弁償をしたことを示すVからBへの領収書の写しは、Aが犯行を認めた上で、情状証拠として犯情を軽くするために提出されるものであると考えられる。これは、Aが犯行を否認しているのにもかかわらず、弁護士はAが犯行をしたことを前提とした行動をしているといえる。
そのため、依頼者の意思を尊重しているとはいえず、同規定22条1項違反という弁護士倫理上の問題点がある。                          以上

 

【コメント】

・設問1は、考慮要素があったはずだがど忘れしてしまったにで、現場で適当にでっち上げた。

・設問2の類型証拠開示の問題の書き方はこれでよいのかわからない。

・設問3は316条の21が模範解答らしい。現場で公判前整理手続の条文を3周以上は探したと思うが、それでも完全にスルーしてしまっていた。この設問が一番時間を使った(訴因変更でも間違いではないらしい)。

・設問4の(1)はどう考えても間接証拠。頭がどうかしていた。(3)も全く分からなかった。

・設問5はまあまあ書けていると思う。