H30年度予備試験論文式 民法 再現答案

 民法 評価:D 所要時間:75分

 

第1、設問1について
1、①債務不履行責任について
 AはCに対して、安全配慮義務債務不履行に基づく損害賠償を請求する(415条)。
(1)そもそも、CはAに対して安全配慮義務を負っているか。
ア、雇用者と被用者のように、上下の関係があり、かつ、信義則が支配する緊密な関係に立つものの間には、上位者が下位者に対して、生命・身体の安全を配慮する義務を負うと解する。
イ、これを本件についてみると、AはCの使用人ではなく、Cの下請け人であるBにやとわれた者である。しかし、CはAに対してCの従業員に対するのと同様に指示を与えて仕事をさせていたのであるから、実質的にはAはCの従業員と同視できる。
ウ、そうすると、Cは、建設現場という怪我等が発生しやすい環境において、Aの生命・身体の安全に配慮する義務を負っているといえる。
(2)そして、AはCの監督する本件家屋の解体現場において本件事故により重傷を負い、身体の安全を害されているため、Cに安全配慮義務違反があるといえる。
(3)これに対し、Cとしては、本件事故はBの不注意によるものであり、自らに「責めに帰すべき事由」がないと反論することが考えられる。
ア、この点、「責めに帰すべき事由」とは、債務者の故意・過失又はそれと信義則上同視すべき事由をいうと解する。
イ、これを本件についてみると、確かに本件事故は、BがAが行っているベランダの柵の撤去作業が終わっていることを確認せずに本件家屋の1階壁面を重機で破壊したことに起因しており、Bの注意義務違反、つまりBの過失によるものといえる。
 しかし、Bは前述のようにCの下請人である。下請人は履行補助者であるといえ、履行補助者の過失は、報償責任の原理の下、本位者たる債務者の故意・過失と信義則上同視すべき事由といえる。
ウ、そのため、Cに「責めに帰すべき事由」があるといえる。
(4)以上より、Aの上記請求は認められる。
2、②不法行為責任について
 AはCに対して、使用者責任(715条1項)に基づく損害賠償を請求する。
(1)まず、前述のようにBはCの下請人として、Cの建築業遂行の指揮監督下にあるといえるため、Cは建築業という「ある事業のため」、Bという「他人を使用する者」に当たる。
(2)そして、下請人という被用者類似の関係にあるBが、Cの建築業という「事業の執行について」Aに重傷という「損害」を与えている。
(3)では、Aは「第三者」といえるか。AもBと同様にCの指揮監督下にあるため、問題となる。
 この点につき、使用者責任の趣旨は、報償責任の資力があるであろう使用者に損害を賠償する責任を負わせ、損害の公平な分担を図る点にある。
 そうすると、「第三者」を使用者の指揮監督下にない者に限定して解する必要はなく、広く、使用者の指揮監督下にある者も含むと解するべきである。
 よって、Aも「第三者」に当たるといえる。
(4)これに対し、Cは「その事業の監督につき相当の注意をした」(715条1項ただし書)と反論することが考えられる。
 確かに、CはBに対してAの撤去作業が終了したことを確認した上で1階壁面の破壊作業に取り掛かるよう指示してはいる。しかし、これは監督としては不十分であるし、また、Cはかかる事故が起こった時に備えて命綱や安全ネットを要するなどしていなかった。
 そのため、Cの監督はやはり不十分といえ、「その事業の監督につき相当の注意をした」とはいえない。
(5)以上より、Aの上記請求は認められる。
3、①と②との違いについて
 まず、①による損害賠償請求権は10年である(167条1項)。一方②による損害賠償請求権の消滅時効は損害及び加害者を知った時から3年である(724条)。本件では、Aが「損害及び加害者を知った時」は平成26年10月1日であるといえるので、平成29年6月1日時点では3年以内といえ、①と②で有利・不利はない。
 また、①の場合、「責めに帰すべき事由」の証明責任は被告にある。②の場合、一般的な不法行為責任の場合は「故意又は過失」の証明責任は原告にあり、債務不履行責任に比べて原告に不利といえるが、今回は使用者責任を追及しているため、立証責任が被告側に転換しているから、①と②で差異は生じないといえる。
第2、設問2について
1、㋐について
 Cは離婚に伴う財産分与によりFに財産を与え、強制執行を逃れる目的でのみFと離婚しようとしている。かかる場合に離婚の成立が認められるかが問題となるも。離婚は解消的身分行為であるため、離婚意思は不要であり、届出意思が合致した上で離婚届を提出すれば正式に離婚が成立すると解されている(764条、739条)。
 本件では、CとFは離婚届を提出するという意思は合致しており、そのうえで平成29年7月31日に離婚届を提出している。
 そのため、CとFと離婚は成立し、それに伴う財産分与も原則として有効であると回答すべきである。
2、㋑について
 Aは、Cに対する損害賠償請求権を非保全債権として、CのFに対する財産分与を詐害行為として取消すよう請求することが考えられる(424条1項)。
(1)まず、離婚に伴う財産分与は身分行為とはいえず、財産権を目的とする行為であるため、424条2項には反しない。
(2)次に、Cは離婚届提出時には本件土地及び本件建物の他にめぼしい財産を持っていないため、本件土地及び本件建物の財産分与により無資力となっている。
(3)では、本件財産分与が詐害行為にあたるか。
 詐害行為に当たるかは、客観的詐害性と主観的詐害性の相関関係によって判断すべきと考える。
 そして、離婚に伴う財産分与は、原則としては詐害行為には当たらないが、財産分与に仮託して過大な財産処分がなされたといえる場合に限り、詐害行為に当たると解する。
 これを本件についてみると、本件財産分与によってCは無資力となるため、客観的詐害性は高いといえ、財産分与において妻に全財産を与えていることから、財産分与に仮託してなされた過大な財産処分といえる。また、Cは差し押さえを逃れる目的を有しているため、主観的詐害性も高い。
 よって、本件財産分与は詐害行為に当たる。
(4)また、上述のとおりCは「債権者を害すること知って」本件財産分与を行っており、かつ、利益を受けた者であるFは悪意であったといえる(424条1項ただし書)。
(5)以上より、Aの上記請求は認められると回答すべきである。      以上

 

【コメント】

・設問1の不法行為責任は709でいくか715でいくか迷った。

・設問2は、改正される詐害行為取消権なんて出るわけねーだろバーカ、と思っていたらしっかり出題されてしまったので驚いた。書き方が定まっていなかった。

・全体的に薄い・中身のない記述になってしまっていると思う。