平成30年度予備試験口述式試験再現[2日目刑事]
平成30年度予備試験口述式試験(2日目の刑事)の再現問答です。
予想点数は62点です。
質 問 |
答 え |
内心の動き |
では、事案を言います。 Aは一人暮らしのB宅の前にガソリンをまき、持っていた新聞紙にライターで火をつけて着火させ、B宅を全焼させました。 この場合、Aはどのような罪責を負いますか。 |
現住建造物放火罪です。 |
放火か!! |
何条ですか? |
刑法108条です。 |
まあ言える。 |
はい。 では、本件ではどの時点で実行の着手が認められますか? |
ガソリンをまいた時点で認められると考えます。 |
判例があったけれども、今回でわざわざガソリンをまいた時点に着手を認める実益はなさそう。 とりあえず、判例知ってるアピールとしてガソリンをまいた時点と言っておこうか。 |
そうですか。 では、一般論として放火罪の実行の着手時期についてはどのように考えられていますか? |
はい、目的物の焼損結果発生の現実的危険性が認められる時点で実行の着手が認められるとされています。 |
突っ込まれなかった。 着手時期は放火罪のバージョンで言ってあげよう。 |
では、本件について詳しくあてはめてみて下さい。 |
ガソリンは揮発性が高いため、ガソリンをまいた時点で、火のついた新聞紙で着火する以外の何らかの事情によりそこから発火する可能性が高いといえます。 そのため、ガソリンをまいた時点で放火罪の実行の着手が認められます。 |
実際のガソリンの揮発性の高さを私は知らない。 |
まあいっか。 では事案を少し変えます。 まいたものがガソリンではなく灯油であった場合にはどうなりますか? |
灯油はガソリンと比べて揮発性が低いため、先ほど申し上げたような、火のついた新聞紙以外の方法により着火することは考えられにくいです。 そのため、灯油をまいた時点では放火罪の実行の着手は認められません。 |
灯油の実際の揮発性も知らない。 |
はい。 ではこの場合何らかの犯罪は成立しますか? |
・・・ 放火予備罪が成立します。 |
犯罪不成立と少し迷った。 |
はい。 では、どの時点で放火予備罪が成立するのでしょうか。 |
えーーっと。 少なくとも、灯油とライターと新聞紙を持ち、B宅に火を付ける目的で、B宅の前に行った時点では放火予備罪は成立すると思います。 |
これ以上突っ込まないでくれ!! 「少なくとも」で逃げることは大事なテクニック。古事記にもそう書いてある。 |
そうですね。 ではまた少し事案が変わります。 本件において、BがB宅に住んでいなかった場合にはAに何罪が成立しますか? |
はい。非現住建造物放火罪が成立します。 |
解放してくれてありがとう。 |
何条ですか? |
109条1項です。 |
これは言える。 |
では、仮にAはBからB宅に火を放つことにつき承諾をもらっていた場合にはどうなりますか? |
自己所有非現住建造物放火罪が成立します。 |
これも知ってる。 |
何条ですか? |
109条2項です。 |
これも言える。 |
はい。 ではなぜ109条2項の罪になるのですか? |
所有者の承諾により、自己所有と考えることができるからです。 |
このくらいでいいだろう。 |
もっと詳しく。 |
所有者が承諾することで、他人の所有権侵害という側面がなくなります。 109条1項と2項の区別は他人の所有権侵害があるかないかでなされているため、本件では所有者であるBの承諾により所有権侵害という側面がなくなります。 そのため、109条2項になります。 |
ぐいぐい来るねぇ。 |
でも、放火罪って公共危険犯だよねえ。 |
はい、そうです。 |
その通りです。 |
所有者の承諾があっても、公共危険犯であることには変わりはないでしょ? それなのに所有者の承諾があるからといって成立する罪が変わっていいの? |
そうですねぇ・・・ やはり保護法益である所有権侵害という側面がなくなりますので、(ここで遮られる) |
質問の意図があまり読めない。 |
じゃあさ、確認なんだけど、放火罪の保護法益って何なのよ? |
はい。まず第1に、公共危険犯ということで、不特定多数人の生命や身体の安全、財産があります。 その次に、放火された者の生命や身体の安全、財産があります。 また、(ここで遮られる) |
基礎マスターに3つ上がってたなあ。 |
そうだよね。 じゃあ保護法益から考えると今回はどうなるの? |
公共危険犯という性格はありますが、所有者の承諾により後者の保護法益を保護する必要がなくなります。 そのため、109条2項になります。 |
さっきと同じことを言っていますが大丈夫ですかね? |
はい。 では、仮にAが放火した家が無主物だった場合にはどうなりますか? |
え~~~っとですね 110条になります。 |
さっきと同じことしか言ってないぞ。まあいっか。 それはさておき、無主物の家なんてものがこの世には存在するのか? |
え! |
うーーん 器物損壊罪でしょうか |
無主物の家が気になる。そもそもそれは「家」なのか? |
ほんとに!!! |
いえ、やはり無主物の場合ですと所有権侵害が観念できないため、109条2項になります。 |
戻ってみる。 |
そうだよね。 では事案が変わります。 AがB宅の前にガソリンをまき、ライターで火を付けた新聞紙により放火しようとしている際に、B宅前の路上でその様子を目撃した通行人Cが携帯電話で警察に通報しようとしました。 それを見たAは警察に通報されると思い、ガソリンに火を付けるのをやめました。 この場合、刑法43条ただし書の中止犯の成立との関係で何か問題になりますか?
|
はい、この場合には「自己の意思により」中止したといえるか、つまり任意性が問題となります。 |
なんだ、それでいいのか。
中止犯、予想はしていた。 |
では、あなたはどのように考えますか? |
私はこの場合は「自己の意思により」中止したとはいえず、中止犯は成立しないと考えます。 |
|
あなたは中止犯の任意性について、どのような基準で判断していますか? |
何らかの外部的事情の認識により中止行為をした場合には「自己の意思により」中止したとはいえないです。 しかし、人間の行動はなんらかの外部的事情の認識に基づき行われますので、その認識した外部的事情がその者を必然的に中止行為に駆り立てるような場合でない限り、外部的事情の認識をきっかけに中止行為を行ったとしても、それは「自己の意思により」なされたといえ、任意性が認められると考えます。 |
言葉にするのって難しい。 |
はい。 あなたは誰を基準に任意性を判断しますか? |
行為者です!! |
あまり深く考えたことがなかったが、その場のノリで即答してしまった。 |
はい。 では本件で説明して下さい。 |
本件で、AはCが電話をしているのを目撃しています。 放火犯人が、自らの姿をみた者が携帯電話で通話しているのを見た場合、通常・一般的な放火犯人は警察に通報されると思いますので・・(ここで遮られる) |
「通常・一般」というワードを出すと突っ込まれるかな? |
今、一般的って言った??? |
はい、行為者を基準に任意性を判断するのですが、本件では行為者の内心は詳細には示されていませんので、一般的な放火犯人を基準として・・・・ いや、先ほどの発言を撤回します。 本件でAはCが警察に通報していると認識していますので、Aは警察が現場に来て自らが現行犯逮捕されてしまうと考えます。そうすると、Aはそれを避けるために犯罪を中止したといえます。つまり、Cが警察に通報しており、それにより自らに危険が迫っていてるという、その者が必然的に中止行為に出るような外部的な事情の認識により犯罪を中止していますので、「自らの意思により」とはいえず、任意性は認められません。 |
案の定突っ込まれた。この主査、一言一言に厳しい。 ここで負けるわけにはいかない・・・と主査を説得にかかるも、それをやってはいけないと思い出し、急に撤回する。 撤回したら、主査がニッコリ笑った。 |
はい、そうですね。 では、Aは、B宅前の路上で携帯電話で通話しているCを見ましたが、それは友人と通話していてたまたまそこを通りがかったに過ぎないと考えました。しかし、今回は犯行をやめて、Bが帰ってきてからBの目の前で家に火を放ってやろうと思い、今回は放火するのをやめました。 この場合はどうなりますか? |
はい、この場合は、行為者であるAの認識を基準としますと、友人と通話している通行人が通りかかったことの認識はAを必然的に中止行為に駆り立てるものではないため、今回は「自己の意思により」中止したといえ、任意性が認められます。 |
論理を大事に。 |
あなたが先ほどおっしゃったのと別の説もありますよね? それはどのようなものですか? |
はい、一般人を基準とするものです。 |
知らないけど、おそらく一般人基準だろう。 |
それによると先ほどの事例はどうなりますか? |
放火犯の前で携帯電話で通話している者がいれば、その者は警察や消防に連絡していると、一般人は考えます。そうすると、その外形的ない事実を認識した放火犯人が犯行を中止すれば、それは先ほど申し上げたのと同様に、それは必然的に中止行為に駆り立てるような外部的事情の認識によるものといえるため、「自己の意思により」とはいえず、任意性は認められないことになります。 |
論理を大事に。 |
はい。 では次です。 B宅に火を放ったAが、通行人に対して「あとは頼む」と叫んで走り去った場合に、Aに中止犯は成立しますか? |
いえ、しません。 |
中止行為も聞くのね。 |
なぜでしょうか? |
はい、中止犯の根拠は責任減少にあるため、中止行為といえるためには責任減少のため、結果不発生に向けた真摯な努力が必要となります。 本事例では、消火を他人に任せて走り去っただけですので、焼損結果不発生のための真摯な努力があるとはいえず、中止行為は認められないためです。 |
アバウトでいいや。 |
はい。 では、AがB宅に火を放つ前のガソリンをまいた段階で、犯罪を中止した場合ではどうなりますか? |
この場合では中止行為といえると思います。 |
うーーん。確かにガソリンをまいた時点で着手は認められるんだけど、その後何らかの事情で発火する可能性が高いって言ったからなあ。そうすると、ガソリンを拭き取ったりする必要があるというのが論理的には正しいんだろうけども、主査は中止行為に当たるといってほしそうな気がするのでとりあえずそうしておこうか。 |
なぜでしょうか? |
はい、先ほどの場合はすでに火が放たれており、焼損結果発生に向けた因果の流れがスタートしています。このような場合は結果不発生に向けた積極的な作為が必要となります。 しかし。ガソリンをまいた時点では、まだ着火しておらず、焼損結果発生に向けた因果の流れがまだないといえます。 そのため、その場合にはその時点で犯行をやめることで中止行為として充分であるといえるからです。 |
論理的に微妙なのは分かっているから、あまり突っ込まないでくれ!!! |
そうですか。 では場面が変わります。 Aは放火について起訴されました。 Aの公判において、13歳の目撃者Cの証人尋問がなされることになりました。 その際、Cは一人で証言をすることに不安を抱えています。 この場合、裁判所として何かできることはありますか? |
はい、Cの証人尋問にCの保護者などの付き添いを認めることが考えられます。 |
解放してくれてありがとう。
まさかの付き添い。 条文番号は知らないぞ!!! 聞かないでくれ!!!! |
はい、付き添いを認めるとどうなりますか? |
はい、Cが落ち着いて、安心して証言ができるようになると考えられ、当時の正確な証言を期待できるようになります。 |
条文聞かれなくてラッキー。 この質問の意図はわからない。 |
では、Aの妻の証人尋問がなされることになりました。しかし、妻は夫の顔を見ると怖くて言いたいことが言えないと言っています。 この場合、裁判所としてはどうすべきでしょうか。 |
はい、被告人と証人との間の遮蔽措置を行います。 |
まさかの遮蔽措置。 条文番号は知らないぞ!!! |
他には? |
はい、ビデオリンク方式によって証人尋問を行うことが考えられます。 |
最近ネットニュースで見た。 |
では、証人と被告人との間の遮蔽措置を行うための要件はわかりますか? |
えーーー、はい。 被告人と証人との人的関係、つまり、被告人の顔をみると正確な証言ができなくなってしまうような事情が必要だと思います・・・
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そんなことは全く覚えていない。 知っててたまるか。 |
まあいいや。 では、先ほど遮蔽措置をおっしゃいましたが、遮蔽措置にはもう一つあるのを知っていますか? |
傍聴席との間の遮蔽措置でしょうか。
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それは知ってる。 |
はい、そうです。 その二つでは要件に違いがありますが、知っていますか? |
えーーーっとですね。 あ、自信はないのですが、証人と被告人との間の遮蔽措置を行うためには、弁護人が出頭している必要があったかと思います。 |
そんなのがあった気がする。 |
まあ、それもあるんだけどね。 わからない? |
いやーーー・・・ |
それじゃないのならわからない。 |
じゃあ、被告人との間の遮蔽措置と、傍聴席との間の遮蔽措置とで、どちらの要件が厳格は分かりますか? |
・・・ 被告人です!!! |
3秒くらい迷ったが、被告人にしてみた。 微妙な反応をされたら「裁判の公開の要請」とか言って傍聴席に変更しようかな。 |
はい、なぜでしょう? |
やはり、被告人にとって証人の証言は、それによって犯罪の成否の結論が異なり得るという点で重要です。そうなると、被告人としては証人の表情とかをチェックしてしっかりと証言を聞きたいと思います。 それができなくなるというのは被告人にとって大きな利害関係があるといえます。 また、証人の顔が見えないということは裁判の公開という観点からも問題があります。 (ここで遮られる)
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被告人でよかったのか。
あとはまあ適当に言ってみよう。 |
今「公開」って言った!?
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すみません、裁判の公開の話はどちらかというと傍聴席との間の遮蔽措置の場合ですね・・・ やはり、証人尋問は被告人に重大な利害関係を有するので、被告人としても証人の顔をきちんと見たいと思います。あいまいな場合とかはそれが顔にでると思うので。それができなくなるのは・・・ |
やはりこの主査は厳しいね。 |
でも、声は聞こえてるんだよね? 声だけではダメなの? |
はい、そうですね。 しかし、供述態度の直接観察は大切だと思います。 |
なんとなくキーワードっぽいものを出してみる。 |
うん、被告人や弁護人は証人尋問に対してどうするの? |
えー、異議を述べます。 |
自分でも苦笑い。 |
(笑い)異議ねえ。 |
あ、反対尋問をします。 |
思いついた! |
そうだよね、証人の顔が見えないと、どうなるの? |
はい、適切な反対尋問権の行使が難しくなります。 |
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そうだよね。だから被告人との遮蔽措置の場合の方が要件が厳しいんだよね。 副査、何か?(副査首を横に振る) ではおわります。お疲れ様でした。 |
ありがとうございました。 |
すごく詰められたなあ。 でも充実感はあったからよかったかな。 今日もパイプ椅子に4時間座らされて、こんな試験は二度と御免だぜ!!! |