H30年度予備試験論文式 刑事訴訟法 再現答案

 刑事訴訟法 評価:B 所要時間:65分

 

第1、設問1について
1、①について
①の行為は所持品検査として適法か。
(1)まず、所持品検査は職務質問の実効性確保のために必要かつ有効な行為であるため、警察官職務執行法(以下、「警職法」とする。)2条1項に基づき許される。
そして、所持品検査は任意手段たる職務質問の付随行為として許される以上、所持人の承諾を得て行われなければ違法となるのが原則である。
ただし、常に承諾を要するとなると犯罪の予防・鎮圧という行政警察目的が達成できない。
そこで、所持人の承諾がない場合であっても、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り、所持品検査の必要性・緊急性を考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度において許容されると解するべきである。
(2)①の行為は特定の目的物を探索するものではないため、捜索には当たらないといえる。では、強制に至らないといえるか。
 この点、「強制」とは「強制の処分」(197条1項ただし書)と同義であると解する。
 ここで、「強制の処分」の意義が問題となる。「強制の処分」か否かは、被処分者の権利・利益に対する制約を基準とすべきであるが、それに該当すると、強制処分法定主義及び令状主義(憲法33条、35条)という厳格な規律が及ぶものであるから、そのような規律を及ぼすのに値する程度に質的に重要な権利利益が制約されるものに限り「強制の処分」に当たると考えるべきである。
 そこで、「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反し、重要な権利・利益の制約を伴う処分をいうと考える。
 これを本件についてみると、甲はPがシャツの上から自らのへそ付近を触るのを明示的に拒否してはいないが、甲は触られたくないと思っているであるといえ、①の行為は黙示的には甲の意思に反しているといえる。
 そして、①の行為はシャツの上からおなか付近を触るという態様のものであるところ、そのような態様にとどまる限り、甲がシャツの中に入れているものが何であるかを把握することは難しいといえ、甲のプライバシー権憲法13条後段)侵害の度合いは低いといえる。
 したがって、①の行為は甲の重要な権利利益を制約しているとはいえず、「強制の処分」には当たらない。
 そのため、「強制にわたらない」といえる。
(3)では、任意処分として許容されるか。
 凶器を使用した強盗等犯罪が多発している状況にあり、かつ、甲は服の下に凶器等の危険物を画している可能性があるといえたのであるから、安全に職務質問を行うために甲の所持品を検査する必要性は高かったといえる。また、今所持品を検査しなければ実効性は確保できないため、緊急性も高いといえる。
 そして、かかる高度の必要性・緊急性に鑑みると、シャツの上からへそ付近を右手で触るという行為態様は侵害が軽微であるといえ、相当なものといえる。
(4)以上より、①の行為は所持品検査として許容され、適法である。
2、②について
②の行為は職務質問に伴う有形力の行使として許容されるか。
(1)警職法2条1項は、職務質問が通常、公道上等において行われるものであり、職務質問を実施・継続するためには相手方を停止させることが多いことに鑑みて「停止」と規定したものであって、その他の手段を否定する趣旨ではないと考えられる。
 そこで、明文はなくとも、職務質問に付随する有形力の行使は、強制に当たらない限り、必要かつ相当と認められる場合は適法になると考える。
(2)まず、②の行為は強制に当たるか。前述の基準で判断する。
 本件では、甲は服の下にある物を出すことを「嫌だ」と拒絶しているため、②の行為は甲の明示の意思に反しているといえる。
 そして、Qが甲を羽交い絞めにした行為は甲の移動の自由を奪うものであり、かつ、甲が身体に障害を負う可能性もあるといえ、身体の安全を害する可能性のあるものである。また、Pが甲のシャツの中に手を入れ、ズボンのウエスト部分に挟まれていたものを取り出した行為は、服の中という通常他人に見られることを想定していないプライバシー権保護の期待の高い部分を侵害する行為といえる。
 また、移動の自由、身体の安全、プライバシー権はいずれも重要性の高い権利といえる。
 そうすると、②の行為は甲の明示の意思に反して網の重要な権利利益の制約を伴う処分といえ、「強制の処分」に当たる。
(3)よって、②の行為は違法である。
第2、設問2について
1、本件覚せい剤は②行為という違法な行為によって発見されたものである。そのため、本件覚せい剤は違法収集証拠として証拠能力が否定されないか。
(1)この点について、適正手続の保障(憲法31条)、司法の廉潔性及び将来における違法な捜査の抑制の観点からは、違法収集証拠の証拠能力は否定されるべきである。
もっとも、軽微な違法があるにすぎない場合にも常に証拠能力を否定することは、真実発見(刑訴法1条)の見地から妥当でない。
そこで、証拠物の押収等の手続に、令状主義(憲法35条、刑訴法218条1項)の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないと認められる場合に限って、証拠能力を否定するべきと解する。
(2)これを本件についてみると、②の行為は本来は検証令状によるべき行為といえるため、それを得ずにした②の行為は令状主義を没却するような重大な違法があるといえる。
 また、そのような重大な違法によって得た本件覚せい剤を証拠として許容することは、将来における違法な捜査の抑制の見地からして相当でないといえる。
(3)以上より、違法収集証拠排除法則が適用され、本件覚せい剤の証拠能力は否定される。 以上

 

【コメント】

・つかみどころのない問題だった。

・あてはめも微妙。

・どこかに捻りがあると思って何回も問題文を読んだのだが、見つけられなかった。