京都大学法科大学院平成30年度入試 商法(第1問のみ) 再現答案

A君 27点

第1問

1、本件買入れが「重要な財産の処分及び譲受け」(362条4項1号)にあたり、取締役会決議を欠き無効とならないか。

(1)本件買入れにおいて取締役会を要するか。本件買入れが「重要な財産の処分及び譲受け」にあたるか問題になる。

ア、この点、362条4項1号の趣旨は、多額の借財となる行為は、その後の会社の事業活動に重要な影響を及ぼすことから、取締役会決議事項とすることでその判断に慎重を期す点にある。

 そこで、「重要な財産の処分及び譲受け」にあたるか否かは、会社の業種・規模、当該契約の内容、相手方の事情等を考慮して判断するべきである。

イ、これを本件についてみると、P社の規模が小さい場合や、Xと買い受けた土地の価格が高い場合には本件買受けは「重要な財産の処分及び譲受け」にあたる。

(2)次に、本件買受けが「重要な財産の処分及び譲受け」にあたる場合、取締役会決議が要求されるが、本件では取締役会決議を欠くことから、本件買受けは無効とならないか。

ア、この点、取締役会決議を要する行為をなすにおいて、かかる決議を欠くことは、内部的意思決定を欠くにとどまるから、原則として有効である。

 しかし、取締役会の内部的意思と代表者の意思表示に不一致があるとして、93条ただし書を類推適用して、相手方が取締役会決議を経ていないことを知り、または知りえた時には無効となると解する。

イ、これを本件についてみると、Xが本件買受けにおいて、P社が取締役会決議を経ていないことを知り、または知りえた時には本件買受けは無効となる。

2、本件買受けが瑕疵ある総会決議に基づいて選任された取締役により構成された取締役会によって選定された代表取締役の行為として無効ではないか。

(1)本件総会決議が定款に反し違憲となるか問題になるも、そもそも本件株主総会おける議決権行使の代理人を株主に限る旨定めた定款が310条1項に反し無効とならないか。無効となるならかかる無効の定款に反したことは瑕疵に当たらないことから問題になる。

ア、この点、310条1項は、議決権を行使する代理人の資格を制限すべき①合理的理由がある場合に、②相当と認められる程度の制限を加えることを禁止したものではない。

イ、そして、かかる規定は株主総会が、株主以外の第三者によって撹乱するのを防止するものであり、合理的な理由による相当程度の制限といえる。

ウ、したがって、かかる規定は同項に反せず、有効である。

(2)そうだとすると、株主でないAが議決権行使をした本件総会決議は定款に反するとも思えるが、常に代理人が非株主という理由で議決権の代理行使が認められないとすれば、株主の議決権行使が不当に制約されてしまう場合がある。

 そこで、本件議決権行使の代理人を株主に限る旨定めた定款の効力が及ばないといえないか。

ア、この点、代理人資格を株主に限る旨の定款の規定は株主総会が撹乱されるのを防止する趣旨である。

 そこで、①株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれがなく、②代理行使を認めなければ、株主の議決権行使の機会が事実上奪われる場合には当該定款の効力は及ばないと解する。

イ、これを本件についてみると、弁護士が依頼者である株主の意思に反して、行動することは考えられないことから株主総会が撹乱され会社の利益が害されるおそれがない(①充足)。

ウ、したがって、株主が自ら議決権行使ができない場合等代理行使を認めなければ、株主の議決権行使の機会が事実上奪われる場合には本件定款の効力は及ばない。

(3)以上により、かかる事情があり、本件定款の効力が及ばない場合には本件株主総会決議に瑕疵があるとはいえず、かかる総会決議に基づいて選任された取締役により構成された取締役会によって選定された代表取締役の行為は有効である。     以上

 

B君 32

第1問

1、Aが議決権を行使したことが、831条1項1号の「決議の方法」が「定款」に違反するとして、P社の株主が株主総会決議取消の訴えを提起し、それが認容されれば、Bは遡及的に代表取締役ではなくなり、会社の代表権(349条4項)を失う。

 そうなると、BがP社を代表して行った本件買い入れは無権代理民法113条1項)となり、その効果はP社に帰属しないこととなる。

 では、Aが株主総会において議決権を行使したことが株主総会決議取消の訴えにおける取消し事由となるか、以下検討する。

(1)ア、310条1項は、株主は代理人によってその議決権を行使できる旨を定めている。そうすると、株主総会のおける議決権行使の代理人を株主に限る旨のP社の定款の定めは、同項に反するようにも思える。

 しかし、株主総会のかく乱防止という同項の趣旨からして、代理人資格を制限する必要性が認められる。

 そこで、代理人資格を制限する定款の規定は、①目的が合理的であり、②株主の議決権行使の機会を奪わない相当程度の制限に留まる場合には、同項に反せず有効であると考える。

イ、これを本件についてみると、代理人資格を株主に限れば、株主以外の者による株主総会のかく乱を防止することができるため、その目的は同項に照らして合理的なものであるといえる(①)。そして、本件定款の規定が株主の議決権行使を完全に奪うわけではないため、相当程度の制限に留まるものといえる(②)。

ウ、以上より、本件定款規定は310条1項に反せず、有効である。

(2)ア、本件定款規定が有効であるならば、株主ではない弁護士Aが議決権を代理行使したことは定款違反に当たるのが原則である。

 しかし、いかなる場合にも代理人が非株主であるという理由で議決権の代理公使が認められないとすれば、株主の議決権行使が不当に制約されてしまう場合がある。

 そもそも、前述のように、代理人資格を株主に限定する旨の定款規定の趣旨は、非株主により株主総会がかく乱されることを防ぐことにある。

 そこで、①株主総会がかく乱されるおそれがなく、②代理行使を認めなければ当該株主の議決行使の機会が奪われてしまう場合には、当該定款規定の効力は例外的に及ばなくなるものと考える。

イ、これを本件についてみると、弁護士は職務上、高度の正義感、倫理観を備えているため、株主総会をかく乱するおそれはないといえる(①)。そして、P社は監査役会を設置していないことから、大会社ではないと考えられる(328条1項参照)。しかし、取締役を3人選任し、取締役会が設置されていることからすると、ある程度規模の大きい会社であると思われることからすると、株主間の人的関係が密であるとは言い難く、他の株主に議決権の代理行使を委任することは難しいといえる。そうすると、本件において弁護士Aの議決権の代理行使を認めなければ、当該株主の議決権行使の機会が奪われてしまうといえる(②)。

ウ、したがって、議決権行使の代理人を株主に限る旨の本件定款規定の効力は及ばず、弁護士Aによる議決権の代理行使は定款に違反しない。

(3)よって、「決議の方法」は「定款」に違反しておらず、株主総会決議取消の訴えの取消し事由は存在しない。

(4)以上より、BはP社の代表権を失わず、本件買い入れの効力は有効にP社に帰属する。

 

C君 27点

第1問

1定款の違法性について
まず、本件定款は株主総会に出席して代理権行使する代理人を株主に限っているがかかる定款は違法ではないか。違法であるならば、かかる定款の存在を前提とした株主総会も違法となり、かかる株主総会で選任されたBのなした行為も無効となる。
(1) かかる定款は代理人による議決権行使を定めた会社法(以下、法令名省略)312条1項に違法ではないか。
(2) そもそも、同条の趣旨は、株主に代理人権行使に代理権行使の機会を保障することにある。かかる趣旨にかんがみれば、代理人資格を株主に限定する定款規定は無効とするべきであるとも思える。
しかし、代理人資格を制限することで、株主総会が第三者に荒らされることがなくなるから合理的必要性が認められる。そこで、代理人資格を株主に限定する定款は、議決権行使に対する相当な程度の制限として有効であると解する。
よって、本問の定款は適法である。
代理人を株主に限定する定款は適法であるが、本件において、株主の代理人として株主ではない弁護士が議決権を行使している。よって、定款違反であり、株主総会は瑕疵を帯びるのではないか。
確かに形式的に見れば、弁護士Aは株主ではないため、議決権行使が認められず、定款違反にも思える。しかし、常にこのように解しては、あまりに株主が害される。
そもそも、代理権を株主に限った趣旨は株主総会を争うとする者を株主総会から排除するためである。
(1)だとするならば、通常株主総会を荒らさない弁護士であって、かかる弁護士が委任状など株主の意思の表示主体としての証拠を持参した場合には、株主ではない弁護士も株主総会で議決権を行使できると解する。
(2)本件についてみるに弁護士Aは委任状を持参しているため、上記の要件を満たす。よって、本件の場合には上記定款規定の効力は及ばず、弁護士による議決権行使も有効であると考える。
(3)以上より、株主総会に瑕疵があるとは言えない。
3仮に土地の買い入れが「重要な財産の譲受け」(362条4項1号)に該当するならば、取締役会において、承認を経なければならない。(362条4項)
本件では、取締役会において承認がされた事情はないので、買い入れは無効となる。

4仮に本件が直接取引(356条1項2号)に該当する場合
 Bは直接取引をする際は取締役会の承認を得なければならない(365条1項、356条柱書)
本件では、取締役会において承認がされた事情はないので、買い入れは無効となる。