京都大学法科大学院平成30年度入試 憲法 再現答案

A君 62点

第1問

1、Xは監視カメラによるC本部入り口の撮影、およびDへの情報提供によって、自己の容姿・行動を撮影されない自由および撮影された情報を提供されない自由を侵害するとして違憲ではないか。

(1)まず、上記自由が自己の情報をコントロールするというプライバシー権として憲法13条後段により保障されないか。14条以下に列挙されていないため問題になる。

ア、この点、13条後段の幸福追求権は憲法に列挙されていない新しい人権の根拠となる包括的権利である。そして、人権のインフレ化防止のため個人の人格的利益を内容とする権利である。

 そして、情報化社会の現代においては、自己に関する情報が自己の関与さないところで用いられると、人格的自律が害される。

 そこでプライバシー権は、自己に関する情報をコントロールするものとして人格的生存に不可欠な権利といえ、同条後段により保障されると解する。

イ、これを本件についてみると、自己の容姿・行動は一般に公開を欲せず、広く公衆に知られない私的な情報である。

 また、単に行動といえども、Cの本部に入っていることから、自己がCの活動の背景にある思想を有していることが推知される。

 思想・信条の自由が19条により保障されていることに鑑みても、自己の思想を推知されないことは極めて重要であると考えられる。

 したがって、上記自由は自己の情報をコントロールするというプライバシー権として憲法13条後段により保障される。

(2)次に、監視カメラにより頻繁にXがCの本部に入っている姿が撮影され、かかる情報から得られたXがCの中心人物の1人であると思われるという旨をDに回答したことにより、上記自由が侵害されている。

(3)そして、憲法上保障される権利は絶対的ではなく、公共の福祉(12条後段、13条後段)により必要最小限の制約に服する。

 では、本件侵害行為は必要最小限の制約として許されるか。

ア、まず、上記自由は前述のように、自己の思想を推知する情報という他人に知られることを欲しない情報を他人に提供されないものであり、極めて重要といえる。

イ、次にかかる情報が他人に提供されると、回復不可能であり、制約態様は強度であるといえる。

ウ、したがって、厳格な基準で審査し、①目的がやむにやまれぬもので②目的達成のために当該手段が必要最小限のときに限り合憲と解する。

2、以下、本件について検討する。

(1)目的

 本件行為の目的は日雇い労働者や路上生活者が多く住むB地区で観光客からこわい思いをしたという声があったことから、市のイメージを維持するためである。そして、監視カメラを設置しておくことで、観光客や住民の生命身体の自由の安全が一定程度図られているといえることから、本件行為の目的はやむにやまれねものといえる。

(2)手段

 本件行為は市のイメージの維持に何ら関わりないXの容姿・行動の撮影であることから、目的達成のために手段が必要最小限とはいえない。

(3)結論

 以上により、本件行為はXの自己の容姿・行動を撮影されない自由および撮影された情報を提供されない自由を侵害するとして違憲である。            以上

 

 第2問

第1 小問(1)

1 非嫡出子相続分違憲判決について

 本件判決は非摘出子の相続分が嫡出子の相続分の2分の1となっている民法の規定が憲法14条1項に反し違憲と判断した。

 かかる判決は諸外国の立法活動の変遷や近年の家族形態の変化に伴い家族における個人の尊重が明確に認識され始め、子にとって自ら変えられないことについての区別を認めることはできないことを理由とする。

2 国籍法違憲判決

 本判決は出生後父の認知のみを受けた非嫡出子は国籍を付与されないにもかかわらず、出生後父の認知を受け、さらに父母の婚姻により嫡出子の地位を取得した者には国籍を付与することができるとする規定が憲法14条1項に反し違憲と判断した。

 かかる判決は諸外国の立法活動の変遷や近年の家族形態の変化に伴い家族における個人の尊重が明確に認識され始め、子にとって自ら変えられないこと、さらに国籍を取得するか否かは日本国内において選挙権や社会保障を受ける権利など重要な権利にかかわるものであることを理由とする。

第2 小問(2)

1 意義

 立法変化の事実を理由として違憲判決をすることで、過去に同様の問題が争われた事件の判断内容を否定することなく、また、矛盾抵触を起こす恐れがないと考えられる。

 ひいては、国民の権利義務への多大な混乱を避けることができる。

2 問題点

 違憲判決をする上で立法事実の変化を理由とすると、どの時点で立法事実が変化したか不明確であり、説得的な結論を導けない。                 以上

 

B君 63点

第1問

1、A市による監視カメラによるC本部入り口付近の撮影およびDへの情報提供は、Xの意に反して容貌を撮影・使用されない自由を侵害し、憲法13条後段に反し違憲ではないか。

(1)ア、憲法13条後段は人格的生存に不可欠な権利を保障している。そして、情報化社会である現代社会において、自らの関与しないところで自らの情報が意に反して用いられると、その情報が瞬く間に広がる可能性があり、人が自分らしく生きるという人格的自律を害するため、プライバシー権としての自己情報コントロール権は13条後段によって保障される。

イ、上記自由は自らの情報をコントロールするものであるため、プライバシー権としての自己情報コントロール権に含まれる。

ウ、したがって、上記自由は13条後段により保障される。

(2)A市の設置した防犯カメラにXの容貌が映っており、その画像がDに対して提供されているため、Xの意に反してXの容貌が撮影・使用されているといえ、Xの上記自由が制約されているといえる

(3)もっとも、上記自由も絶対無制約ではなく、公共の福祉(12条後段、13条後段)による必要最小限度の制約を受け得る。

 確かに、インターネットが高度に発達した現代社会においては、情報がインターネット上に一旦発信されると、消去することがほぼ不可能となってしまうため、人格的自律を守るためには上記自由の重要性は高い。しかし、A市によって撮影・使用されたのはXの容貌にとどまっている。公道を歩いている際には容貌は一般に開示されているものであるから、プライバシー権保護への期待は減少しているといえる。そして、A市の設置した監視カメラは夜でも容貌をはっきりと撮影できるほどの高性能のものであり、犯罪を写した可能性のある画像は長期間保存される可能性があるため、規制態様としてはある程度の強度なものであるといえる。

したがって、中間の基準で合憲性を判断すべきであり、具体的には目的が重要で、手段が目的達成との間に実質的関連性を有している場合には許容されると考える。

(4)A市による上記処分の目的は、治安が悪化しているB地区の現状を把握し、今後の対策に役立てることであるといえる。本件目的は、市の責務の一つとして治安維持が挙げられることから、重要なものであるといえる。

 そして、監視カメラを設置して撮影を行うことにより、B地区の情報を収集して、今後の対策に役立てることができるため、手段として適合性があるといえる。

 また、路上に監視カメラを設置することは手段として過剰ではなく、必要性も認められる。

 したがって、手段として目的達成との間に実質的関連性を有しているといえる。

(5)よって、A市による上記処分は13条後段に反せず、合憲である。

2、そうだとしても、A市による上記処分はXの内心を推知するものであり、19条に反し違憲ではないか。

(1)19条は、思想良心の自由の保障を十全化するため、内心を推知されない自由も保障していると解する。

(2)そして、A市のB地区の監視カメラを管轄する部局が市議会議員であるDに対して、C本部前に設置された監視カメラにXがしばしば映っていたことから、XがCの中心人物であると思われる旨を伝えている。

 CはA市の行政を批判する活動をしばしば行っていることから、Cの中心人物であると思われる旨を伝えられたXは、自らがA市に対して批判的な考えを有していることを推知されているといえる。

 したがって、Xの内心を推知されない自由が制約されているといえる。

(3)思想良心の自由に対する直接的な制約は許されないが、間接的な制約に留まる場合は許容される場合がある。本件は、思想良心の自由に対する直接的な制約ではない。思想良心の自由は重要な権利であるため、間接的な制約の場合であっても、目的が極めて重要で、手段が目的達成のために必要最小限度の場合にのみ許容されると考える。

(4)A市の本件処分の目的は。B地区に対して批判的な発言をしたDに対して、Cの中心人物と思われるXの情報を提供することで、DがXの情報を把握し、Dの身の回りの安全を図ることにあるといえる。

 仮にXがDに対して敵対的な感情を抱いたとしても、Dに危害を加えるなどといったことが生じる可能性は低い。そのため、本件目的は極めて重要なものとはいえない。

(5)よって、A市による上記処分は19条に反し、違憲である。

 

 第2問

第1、設問1について

1、立法事実の変化を理由とした違憲判断を行った最高裁判例として、まず在外国民選挙権違憲判決が挙げられる。同判決は、在外国民が衆議院選挙の小選挙区に投票できなかったことを国賠法上違憲と判断したものである。

昔は選挙公報など在外国民に送ることが困難であったことなどから、在外国民が正確な情報を把握して選挙権を行使することが困難であったといえるため、選挙権の制限が認められるとしていた。

しかし、インターネットの発達などにより、海外に居ながらにしても正確な選挙情報を得ることが可能となったため、在外国民も選挙の個性を害することなく選挙権を行使することができるようになったという立法事実の変化があったとして、在外国民の選挙の行使の制限を国賠法上違法とした。

2、次に、民法733条の再婚禁止期間違憲判決が挙げられる。同判決は、民法733条の定める再婚禁止期間の100日を超える部分が違憲であると判断したものである。

 昔は父性の推定の重複を回避するためには6か月の期間が必要であると判断されていた。

 しかし、DNA判定などの科学技術の進化により父性の推定が正確に行えるようになったという立法事実の変化があったとして、100日を超える部分が不要になったとして再婚禁止期間の100日を超える部分が違憲であると判断した。

第2、設問2について

1、意義について

 立法事実の変化を理由とした違憲判断を行うことにより、違憲判断以前の判断は合理的なものであったということができ、誤った判断に基づくものではないといえ、一定の配慮をすることができることが挙げられる。

2、問題点について

 違憲判断以前の判断に与える影響を考慮して立法事実の変化を理由とする違憲判断を行うことは、以前に合憲判断を行った最高裁判所や、合憲判決により不利益を被った者のことを考慮に入れて判決を下していることになる、これは、裁判所が外部から影響をうけているといい得るため、司法権は事実上の影響を受けてもならないという司法権の独立(76条3項)に反する疑いがあるという問題点がある。

 

C君 61点

第1問

第1 C本部の入り口付近を撮影した行為について

1かかる行為はXの自己情報コントロール権を侵害し、違憲ではないか。

(1)権利保障

自己情報コントロール権は、人が日常生活を営み、幸福を追求する上で必要不可欠な権利であるから、幸福追求権の一環として憲法13条前段で保障される。

(2)制約 

本件では、監視カメラにより、Xは無断で撮影されており、Xは自らの情報をコントロールする権利は制約されているといえる。

(3)正当化

では、かかる制約は正当化されるか、違憲審査基準が問題となる。

ア  高度に情報化された現代社会において、自己の情報をコントロールする権利は重要な権利である。また、監視カメラ画像は夜でも鮮明に人を撮影することが出来る。そして、保存期間も2週間が原則とはいえ、犯罪のおそれがあれば、それを超えて保存することが出来る点で、権利の制約は大きなものとも思える。

しかしながら、公道での人の移動は他人から見られることが前提となっており、プライバシーへの期待権は減少しているといえる。

イ  そこで、かかる撮影行為の合憲性については、撮影行為の目的が重要であり、手段が目的との間で実質的関連性を有する場合には、合憲であると解する。

ウ  本件についてみると、本件撮影の目的は、A市のイメージダウンをさけるための正確な情報把握である。市のイメージは、観光客の増加などにも影響する事項であるから、イメージダウンを避けるための情報収集という目的は重要なものと言える。しかしながら、B地区の人間はなんらかの犯罪行為をしたという事実は確認されておらず、日雇い労働者というだけで、生活地域を監視することは、かかる目的との間で、実質的な関連性を欠いているといえる。

2 以上より、上記撮影行為は自己情報コントロール権に反し違憲である。

第2 C本部の入り口付近を撮影した行為について

1かかる行為はXの自己の思想に関する情報を知られない権利を侵害し違憲ではないか。

(1)権利保障

自己の思想に関する情報を知られない権利は、信教の自由(19条)の一内容として、保障される。

(2)制約

本件では、監視カメラがC本部の入り口を移しており、C本部に出入りするXの思想がDらに推知されているため、自己の思想に関する情報を知られない権利に対する制約があるといえる

(3)正当化

   自己の思想に関する情報を知られない権利は、精神的自由権の分類される権利であり、重要な権利である。また、C本部の入り口付近に監視カメラが設置されると、かかる本部の立ち入ったものの思想を容易に推知することが出来るため、権利制約が大きい。しかしながら、本件ビデオカメラは、B地区の中央通りに数多く設置されていたものであって、C本部入り口付近をことさら狙った撮影ではなく、たまたま撮影対象にC本部入り口が映りこんでしまっただけである。よって、本件撮影行為は間接的・付随的な制約にとどまるものということがきる。

イ  したがって、かかる撮影行為の合憲性については、撮影行為の目的が重要であり、手段が目的との間で実質的関連性を有する場合には、合憲であると解する。

ウ  本件についてみると、本件撮影の目的は、前述のとおり、A市のイメージダウンをさけるための正確な情報把握である。市のイメージは、観光客の増加などにも影響する事項であるから、イメージダウンを避けるための情報収集という目的は重要なものと言える。しかしながら、前述のとおり、B地区の人間はなんらかの犯罪行為をしたという事実は確認されておらず、日雇い労働者というだけで、生活地域を監視することは、かかる目的との間で、実質的な関連性を欠いているといえる。

2  以上より、本件撮影行為は、Xの自己の思想に関する情報を知られない権利を侵害し違憲である。

第3 監視カメラによって得たデータをXに無断でDが取得した行為について、

1かかる行為は、Xの自らの情報をコントロールする権利を侵害し違憲ではないか。

(1)権利保障

自己情報コントロール権は、人が日常生活を営み、幸福を追求する上で必要不可欠な権利であるから、幸福追求権の一環として憲法13条前段で保障される。

(2)制約

   本件において、Xを撮影した画像が、Xに無断でDに提供されており、Xは自己の情報をコントロールすることが出来ていない。よって、かかる権利に対する制約があるといえる。

(3)正当化

   高度に情報化した現代社会において、情報は他の情報と結びつくことで、個人のプライバシーや、重要な情報となりうるから、自己情報コントロール権は重要な権利である。また、Dが取得した情報は、Xが市民団体C本部の一員であることを示すものであり、Xの思想に関する重要な情報であるから、本件情報譲渡行為による自己情報コントロール権に対する制約は大きい。

    以上より、本件情報提供行為は目的が必要不可欠で会って、その手段が目的達成のために必要不可欠である場合に限って合憲となると解する。

    本件についてみると、DはXからの講義に立腹し、Xがどんな人物かをしる目的で情報を受け取っている。かかる目的は、必要不可欠であるとは言えない。

  2 以上より、本件情報提供行為はXの自己情報コントロール権に反し、違憲である。

                                    以上

 第2

第1 設問(1)について

1(1)在外国民選挙権違憲訴訟が挙げられる

(2)内容

 以前、在外国民の選挙権については、海外においては日本よりも情報がないという理由で、制限がなされていた。もっとこれに対し最高裁判所は、現代社会では、世界的なネットワークの発達により、遠隔地の情報も瞬時に届けることが出来るから、かかる制限は妥当でないとして在外国民の選挙権を制限する処置を違憲とした。

2(1)非嫡出子相続分違憲判決が挙げられる

(2)内容

以前裁判所は、民法900条が非嫡出子の法定相続分について、嫡出子の2分の1としている規定を合憲としてきた。なぜなら、法律婚を推奨することが必要だからである。もっとこれに対し、最高裁判所は、家制度がすでに崩壊し、多様な家族形態が生まれている現代社会において、かかる規定はすでに合理性を失ったとして、違憲判断を下した。

第2 設問(2)について

1立法事実の変化による違憲判断の意義

司法は弱者救済のもとにある。そして、多様な事情を考慮し、過去に合憲とした判決であっても違憲であるとすることは弱者保護に資する。また、過去の裁判での判断に裁判所自身が縛られすぎると、かえって国民の権利利益が侵害される恐れが多分に存在する。よって、時の経過に伴い、判断を変更することは重要な意義がある。

2立法事実の変化による違憲判断の問題点

 裁判所には、立法とは異なり、民主的コントロールが及んでいないため、裁判所が一度合憲としたものを、裁判所自身が考えを変更し、違憲と判断することは裁判所の独善につながるそれがある。また、一度合憲と判示したものを、後に違憲と変更すれば、国民が混乱し裁判所に対する国民の信頼が損なわれる恐れがある。以上のような問題点が存在する。

                                    以上